有川 浩「シアター!」アスキー・メディアワークス /2009

  シアター、って言うと、劇場、なんですが、なんとなく私の中では「=映画」に訳されてしまって「=演劇」が浮かばないのですが、赤字のセミプロ小劇団が、覚悟を決めてプロを目指す、(正確にいうと追い込まれてというか尻を叩かれて)そういう話です。
  これを取材から3ヶ月ちょいで書き上げてしまう、著者のモチベーションがいいなぁ~と思いました。
なんかね、それが本文にもいい具合に現れていて、勢いがあります。怒濤。で、面白い。

 その分、それが顕著に出てしまったのか、後半クライマックス部分が、意外と波に乗れなかったな……とも感じました。惜しい。

「シアターフラッグ」を主宰、脚本家で甘え上手な弟、春川巧。
赤字を肩代わりする代わり、2年で300万の黒字をあげてみせろ! という「鉄血宰相」な兄、春川司。
子役からの芸歴をもつ売れっ子声優、羽田千歳も加わって、劇団は本気で商業を目指す。


 ここからややバレになりますが、本番当日、一番客の入る公演で、トラブル発生。
 ここで“本来の流れ”と“致命的なミスを犯した流れ”、両方が同時に語られるのですが(つまり解説しつつ、流れから外れた事による緊迫感をだそうというわけ)、うーんこれ、事前の稽古で多少でも触れておいた方が、すんなり入れたんじゃ(感情移入)ないかな~……と思う。伏線、というやつです。わかりやすいね!

要するに、本番の舞台がどのように進行するのか、どんな話なのか、全体像が読者に伝わっていないために、まずそれをつかむのが先で、トラブル発生の「どうしよう!」感がイマイチ後回しなんだな……

  導入がとても面白い分、後半クライマックスでの失速は残念。

シアターフラッグの借金は300万。期限は2年。
今回の公演で光明が見えた面々、もちろん完済までを描いた続編に、期待です。