徒然読書感想記

管理人の読書覚書。基本的にネタバレなし。 好みは推理もの。 映画の感想もあり。 2010年livedoorBlogにお引っ越し。since200408

小説

東野圭吾「カッコウの卵は誰のもの」

東野圭吾「カッコウの卵は誰のもの」2010/光文社

 カッコウの卵。ちゃっかり自分の卵をよその巣に産み、代わりに育てさせるってやつですね。

 女子スラローム選手として頭角を現し始めている、緋田風美。その父親もスキーヤーで元オリンピック選手。カエルの子はカエルだと、親子のDNAを研究させて欲しいと頼む柚木。しかし父は撥ねのける。血など関係ないのだと。そこには、娘に打ち明けられない秘密があったーー

 展開がめまぐるしく、あれよあれよと一転二転ーーそしたらラストにこの記述が。「初出「○○」○○年○号〜○○年○号」ああ、連載作品ですか。(納得)

 最後まで読んでしまうと、展開がちょっと強引と言うかこじつけ風味もあるかなあ。風美の母親がなぜ亡くなったのかって、それでいいんかい、とか真犯人とか。

 父親の緋田がいい具合に頑固で「〜〜すべきだ」と思い込み、ひとりで苦悩している様は端からみると滑稽でもあり哀愁でもあり。
 まあ男親は結局、生まれた子が自分の子だと信じるしか術がないので、そこに疑念が生じたが最後、苦しむのは当然ですね。

 風美の母が亡くなっている、ということを差し置いても、風美の才能は父譲りだ! と信じて暴走する柚木もまた脇が甘いと言うかなんというか。根はいい青年だったようで、ラストは印象良いですね。

 生まれもった才能を生かして生きていく事が幸せなのだと思っていたのに、本人のやりたいことと才能のギャップに、結局は屈してしまう。
 この辺はむつかしい問題だなあ。


 ひとつツッコミを入れると、血判が古いか新しいかくらいは見てわかると思うんだけど、どうなの。

東野圭吾「パラドックス13」

東野圭吾「パラドックス13」2009/毎日新聞社

 久しぶりに読んだ東野圭吾。あれあれあんまり面白くないよ……??
 そしたらラストに「初出『サンデー毎日』○年○号〜○年○号」と書いてあって納得。ああそうか、連載ものか……

 あまり興味のそそられない仕様だったもんで、つい、斜め読み。
 この本が面白いのは、後半四分の一を過ぎたあたりですよ!

 宇宙の仕様で「パラドックス13」なるものが、13日の13時から13秒間、起こる。しかし何が起こるかわからない。そんな政府官邸からの冒頭。
 結局「パラドックス13」に対しては明確な説明が無いので、のっけから消化不良。本の帯でも読んだ方が親切かもしれません(笑)

 そして起こったパラドクス。数人の男女だけが生き残り、街からはこつぜんと人が消えます。食事をしていた人も、車を運転していた人も……
 あちこちで起こる被害。火事。さらに止まない雨。

 まあ、読めばすぐに「生き残ってる」人たちが実は「死んだ人たち」だってことには気づきます。
 いわば、無人の東京を舞台にした、サバイバル。
 で、どんな年齢の男女を登場させるかで、どんな物語を展開させたいのかはおのずとわかるというもの。
 偏りの無い、配置でした。
 老夫婦。赤子。子供と母親。女子高生。会社役員とそのヒラ。警察官兄弟。ヤクザ。デブ。看護士。

 一応、なぜ生き物が消えたのか、植物はなぜ残っているのか、人と一緒に服も消えたその理由、についてもこじつけ解説はしてるんですが、正直そのへんはどうでもよろしい。


 なんやかやあり、どうやら生き残ってるのは我々だけらしい、そしてこれからもここで生きて行くのなら、子孫を残す事を考えないといけない、とリーダー男(警察官僚・兄)は言い出します。
 つまり、女性一人につき複数の男性の子供を産めば、血が濃くなる事も防げると……続きを読む

宗田 理「ぼくらの七日間戦争」

宗田 理「ぼくらの七日間戦争」S.60/角川文庫

 言わずと知れた名作。久しぶりに読みました。やっぱり面白い!
 映画は主題歌も良かったですね。宮沢りえ主演で、話題にもなりました。ラストはポカーンとしてしまった覚えがあるけれど……

 主人公は中学生。クラスの男子生徒全員で廃工場にたてこもり、ラジオ放送で解放区を宣言して大人達に反抗、教師をおちょくるストーリー。
 この「おちょくる」ところがいいんだなあ。絶妙。
 暴力に傾いているわけでもなく、只の子供の反抗というわけでもなく、さじ加減やバランスが、今読んでも実にいいなあと思います。

 こういうこと、誰でも憧れるやね。
 しかし昔は子供だったはずの大人達が、すっかり子供心を忘れて大人になるという図式も、皮肉なもんです。


 さて、彼らには戦争体験のある老人がひとり味方につきますが、彼の話が妙に現在にリンクしています。
 戦争に行って、こわくなかったのか、と聞く子供。そりゃこわかったと答える彼。
 じゃあ言うことを聞かなければいい、と言う子供に、それができないと答える彼。
 どうして? 素朴な疑問に、今とは違う世の中だったんだ、繰り返しちゃいけねえと答える彼。


以下、抜粋ーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーP79
「どうしたらいいんですか?」
「えらい奴が、立派なことを言うときは、気をつけた方がいい」
「じゃ、総理大臣が言ったら」
 中尾が聞いた。
「あぶねえ、あぶねえ。政治家が子供のことに口出しして、ろくなことはねえ。ほら、最近言ってるだろう。少女雑誌に有害なのがあるとか」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 うわあ。都条例まんまですな。
 これ、今から26年前に書かれた話ですよ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーP80
「おとなって、どうして子供にうるさく言うのかな?」
「そりゃ、いいおとなにしたいからさ」
「いいおとなって何?」
「えらい人の言うことをよく聞く人間だ」
「それがいいおとな? バッカじゃねえのか」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 私もききたいなあ、健全に育成された青少年って、何?

有川 浩「フリーター、家を買う。」

有川 浩「フリーター、家を買う。」2009.08/幻冬舎

 現在ドラマ化されそっちももちろんチェックしているのですが、あ〜ドラマになると、それぞれ皆問題を抱えているんですよ、ってな風に味付けされるのね。
 原作ではほぼ痛いところの無い完璧な、故に正論ばしばし吐く姉が、ドラマではややヘタレ。病院長夫人てそんな強い立場で僻まれるものなのでしょうか? ママ友に利益を要求されはねのけられないあたりがなんだかなあもうて感じ。あ、こんな事を書くと本じゃなくてドラマの感想になっちゃうな。
 いや実は、ドラマ化に際して一番気にしていたのが姉、次が母。姉のあのキレっぷりをどう再現してくれるのかとわくわくしていて結局見損ねたんですが。あの分じゃあどうも無理そうかも……
 で、父親も不倫などしていないはず。描写はないけどね。ただ単に家族と向き合えないだけの男だったんですが。この父と姉のバトルが一番の見所だと思っております。
 主役二宮くんはもう文句なしです。はい。

 あらすじは端折りますが、大変面白く読めました。
 ただ、ラストに主役のラブロマンスがからんできて、あれあれ? 家族ドラマじゃなかったっけ? とちと思った。そこから、話が違う方向に進んでしまって。まあラブコメの有川浩らしいといえばらしいですね。

 これをファンタジーだとか都合が良すぎるだとか評している方もいるようですが、人生に、そして物語に必要なのは、こういう希望を含んだファンタジーなんじゃないかなぁ。

有川 浩「シアター!」

有川 浩「シアター!」アスキー・メディアワークス /2009

  シアター、って言うと、劇場、なんですが、なんとなく私の中では「=映画」に訳されてしまって「=演劇」が浮かばないのですが、赤字のセミプロ小劇団が、覚悟を決めてプロを目指す、(正確にいうと追い込まれてというか尻を叩かれて)そういう話です。
  これを取材から3ヶ月ちょいで書き上げてしまう、著者のモチベーションがいいなぁ~と思いました。
なんかね、それが本文にもいい具合に現れていて、勢いがあります。怒濤。で、面白い。

 その分、それが顕著に出てしまったのか、後半クライマックス部分が、意外と波に乗れなかったな……とも感じました。惜しい。

「シアターフラッグ」を主宰、脚本家で甘え上手な弟、春川巧。
赤字を肩代わりする代わり、2年で300万の黒字をあげてみせろ! という「鉄血宰相」な兄、春川司。
子役からの芸歴をもつ売れっ子声優、羽田千歳も加わって、劇団は本気で商業を目指す。

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